折々の記 9

突然の冬、そして春の兆し

 

暖冬が続いていたと思ったら突然一級の寒波がやってきた。

近年、我が家の辺りは冬場と云えども雪を見ることが少なくなった。

・・・そう思っていた所に雪が舞い降りてきた。

遠く北摂の山々を見渡すと雪雲がかかり、山肌が霞んで見える。

これが本来の季節なのだということに改めて気がつかされた。

とは言え、このあたりに降る雪は北国に住まう方々からすればまるでお遊びのようなものである。

加えて、能登地方をはじめとする越前、越中、越後にかけて暮らしておられる方々にとっては、大地震のあとの大雪は苦しみに追い打ちをかけられるような思いであろう。

ただただ祈ることしかできない。

そんな中、道を歩いていて一本の梅の木を見かけた。

よく見るとその枝には遠慮がちに膨らんだ白梅の蕾がいくつも付いている。

この冬一番の寒気と、雪の舞う中で、季節は間違いなく歩みを進めているようだ。

”冬来たりなば春遠からじ“

そうか! この雪は春を連れてくる妖精のようなものなのか。

そう考えれば、この寒さも少しは我慢できるというものだ。

肌を刺す風に口もとをゆがめながら歩を進める私の顔に、瞬間雲間から陽の光が当たった。

眩しさに思わず目を閉じたが、瞼越しにも伝わるその明るさが、いやが上にも春の到来を予感させてくれる。

暖かくなったら何をしよう。

何処へ出かけよう。

俯きながら歩くことを止め、高いところに登って遠くを見渡してみよう。

新しい一歩を踏み出すために「春」という季節があるのなら、厳しく暗い「冬」という季節はその前の助走期間なのだ。

今はしっかりと足下と目指す未来を見定めておこう。

人生の終わりが見え隠れするこの歳になっても、やはり春という季節は心躍らせずにはいられないものなのだ。